日本人の倫理観とおカネ②

日本人の倫理観とおカネ②

江戸幕府の収入源は農民が納める年貢に依存しており(本百姓体制)それを換金することで成り立っていました。しかし年貢増徴のために進めた新田開発によって米の価格が下落する一方、幾度か行われた改鋳で貨幣の金銀含有量を減らしたことでインフレ起こり、「米価安の諸色高(しょしきだか)」と呼ばれる状況になりました。

米の価格が下落して収入が減少するのにモノの価格は高騰したため、旗本や御家人の家計は悪化する一方です。しかし何しろ不浄なおカネに関しては無頓着ですから、江戸住まいの諸藩や町人に対しての体面から生活水準を下げることはできない、多くの使用人を抱えねばならないなど、支出のカットもできません。

収支の不足分は高利貸しからの借金で賄われますが、家計を見直そうという発想はないので、借金は何代にも渡って膨れ上がって行きます。そして最後に行き着いた手段は、御家人株や旗本株を売却して借金を返済するという方法でした。

与力1000両、御徒(おかち)500両、同心200両などという相場が語られたように、江戸末期にはそれだけのおカネさえ用意すれば誰でも旗本・御家人になれる世の中になりました。そうやってカネで成り上がった武士を、「金上げ侍」と呼びます。また株を売らざるを得なかった者は借金取りに身ぐるみまで剥がされて物乞いになるなど、没落しました。

日経新聞で連載中の『黒書院の六兵衛』はまさにそのような時代背景の物語です。

時は幕末、既に江戸無血開城の談判は相成り、官軍の先鋒として入城した主人公・加倉井隼人。城内からは既に殆どの旗本・御家人は退出してしまっているが、只一人、無言で居座り続ける旗本あり。的矢六兵衛というその侍は、御書院番士という旗本の中でも名門中の名門であるが、何を問うても黙したまま。居座る目的も分からない。あれこれ調査するうち、何とその六兵衛は金上げ侍であることが判明した。

江戸城明渡しの総責任者である勝安房守(勝海舟)に事態を報告し、「金上げ侍など人間の屑だ、叩き斬ってやる」と息巻く加倉井に対し、勝の一言。「実はなあ、おいらもその金上げ侍なんだよ。」そうなのです。勝海舟は祖父が越後の百姓でしたが盲目の人であったため、当時盲人にのみ許されていた高利貸しを営んで巨富を得、それを元手に御家人株を買ったのでした。

仰天する加倉井に対し、勝はこう言い放ちます。

「金上げ侍の方がよっぽど利口だよ。なぜなら金持ちの倅はきちんと教育を受けているからさ。懐に余裕があるゆえ、金銭の悶着は起こさず己の務めを十分に果たす。そもそも幕府が腐れてしもうたのは、家柄ばかりを誇って中身のない侍が政を仕切り、賄賂を貪ったからだ」
「借金まみれのまんま、やれ旗本でございの御家人でございの言うておるのは、みな馬鹿だよ。利口が馬鹿に代わって政をなすことが何故悪い」

窮乏する幕府と不浄なおカネからは目を背ける旗本・御家人の構図は、1000兆円にまで膨らんだ政府債務、受け取れるかどうかも怪しい公的年金から目を逸らし、「まあ何とかなるだろう」と脳天気に構えている日本政府と国民の構図に酷似していませんか?

おカネのことは国がきっと何とかしてくれるだろうから、自分はしっかり働いてお国のために尽くせばそれでいいのだ、という考え方もいいでしょう。しかし忠義が売り物であったはずの旗本・御家人のうち、上野寛永寺で討ち死にしたのはその一部、多くは散り散りになって行方不明になってしまったのです。それに対し、自身の経済的基盤をバックに最後まで幕府の面倒を見た後、明治新政府でも活躍した勝海舟の方が、金上げ侍と言われようと、よっぽどお国のために働いたと言えるのではないでしょうか?

我々は日本を取り巻く財政状況をまず正確に把握し、そして国に頼らない経済基盤を確立するため、正しいおカネの知識、Financial Literacyを提供しようとの志を持って発足いたしました。そう、幕末の志士の気概を持って!